最新のグローバル戦略 「拡大するアジア域内のクロスボーダー需要を取り込み、小口貨物サービスプロバイダーの地位を確率する」 ヤマトアジア株式会社 リチャード・チュア

急速な経済成長を受け、物流サービスの高度化・多様化が進むアジア――。
とりわけアセアンを中心とした東南アジアは、TPP大筋合意やAEC発足により、域内のクロスボーダー物流が拡大の一途をたどっています。
2010年以降、アジア各国で宅急便サービスを展開し、ラストワンマイル・ネットワークの構築を進めてきたヤマトグループは、いまアジアでどのような"次なる一手"を打とうとしているのか。
グループのアジア事業を統括するヤマトアジア株式会社(本社・シンガポール)のリチャード・チュア社長に、今後の事業戦略についてインタビューしました。

「ラストワンマイル」がサプライチェーン戦略の鍵に

いま、アジアの物流では「ラストワンマイル」に注目が集まっています。顧客ニーズの変化が激しくなる中で、製造業者や小売業者は顧客が求めているものをいち早くキャッチして、素早く製品づくりや販売戦略に活かしたいと考えるようになっています。つまり、多くの企業は顧客ともっとダイレクトにつながりたいと考えるようになっており、そのための手段や機能を物流事業者に求めるようになっています。

さらに、近年のEコマース市場の飛躍的な成長もラストワンマイルの必要性を高めています。中国はもちろんのことですが、アセアン地域でも人口が6億人を超え、各国の生活水準が上がっており、消費市場としての重要性はますます高まっています。

商品をなるべく早く届けることで、消費者ともっと緊密につながりたい――。そのためにも、ラストワンマイル・ネットワークの構築がアジアにおけるサプライチェーン戦略のキーポイントになっているわけです。

アジア各国でローカルパートナーとの連携を推進

ヤマトグループでは、2010年1月に上海とシンガポール、2011年2月に香港、同年9月にマレーシアで宅急便サービスを開始しました。それ以前から行っていた台湾を含め、現在アジア地域の5ヵ国・地域で宅急便サービスを提供しており、日本で培ってきた高品質なサービスを各地域で展開してきました。

これまでは自前によるネットワーク構築を基本戦略としてきましたが、グループ単独で配送インフラをつくり上げることは時間もコストもかかり、アジアの経済成長スピードに追いつくことが難しい面もでてきました。そこで、現在は各国ごとにローカルパートナーとの提携、M&Aを実施することで、ネットワーク構築や機能強化を加速していく方針を進めています。

その考えにもとづき、2016年1月にマレーシア宅配大手のGD Express Carrier Bhd.(GDEX社)と業務・資本提携を結び、マレーシア国内におけるラストワンマイル機能を強化しました。ヤマトがマレーシアで築いてきた配送インフラとGDEX社のネットワークを掛け合わせることで、同国で№1の小口貨物配送サービスを早期に確立したいと考えており、そのノウハウを他のアセアン各国にも横展開していきます。
また、2016年10月にはタイのサイアム・セメント・グループ(SCG社)とタイ国内で宅急便サービスを提供するための合弁会社を設立しました。SCG社はタイ王室が資本を持つ国内有数のインフラ系企業であり、パートナーとしてこれ以上の企業はないと考えています。2017年1月から、この合弁会社を中心にタイ国内で小口配送事業を展開していく予定です。

世界の物流市場規模推移予測

拡大する越境物流、クロスボーダー輸送に経営資源を集中

ヤマトグループのアジアにおけるネットワーク戦略では、アセアン各国における小口配送ネットワークの拡充と並行して、国境を跨いだクロスボーダー事業を積極的に展開していきます。AEC(アセアン経済共同体)の発足やTPP(環太平洋経済連携協定)などによって、経済やモノの動きはますますボーダーレス化が進み、関税障壁もなくなる方向に進んでいます。アジア域内においても、中国とアセアン各国間での貨物輸送量が飛躍的に増えており、その中でも陸上輸送の比率が高まってくることが予想されます。

そこでヤマトグループでは、マレーシアに本拠地を置くクロスボーダー陸上幹線輸送会社であるOTLグループを買収することで基本合意し、2016年12月末にも株式を取得することにしました。

世界の物流市場規模推移予測

OTLグループはクロスボーダー陸上輸送の分野では東南アジアで№1の実績を持つ企業であり、マレーシアから中国まで自社トラックで一貫輸送できる強みを持っています。また、GPSによる全車両の位置確認、CCTVカメラによる庫内監視、コンテナの解錠を本社で一括管理するE-Lockシステムなど独自のセキュリティシステムを採用しており、高付加価値の商品でも安心して輸送することができます。

ヤマトではこのOTLグループを核にしてシンガポール~中国間の6,000kmを結ぶクロスボーダー陸上輸送ネットワークを構築し、そこにアセアン各国で展開しているラストワンマイル・ネットワークとロジスティクス事業・フォワーディング事業をリンクさせることで、アジア域内で小口配送ネットワークの面的な拡大をはかります。

具体的には、越境トラックが定期運行するクロスボーダー幹線ネットワーク上に8ヵ所のハブを設け、そこで荷物の積み降ろしや輸出入通関、各国のラストワンマイル・ネットワークと結合していきます。
各国におけるネットワーク構築に関してはローカルパートナーと連携しながら進めていく一方、クロスボーダー幹線輸送についてはヤマトグループの経営資源を集中的に投下することで、拡大する越境物流ニーズにいち早く対応していきたいと考えています。

ヤマトグループのアジア戦略

「BtoB納品物流」「越境EC」「小口コールドチェーン」をターゲットに

こうしたネットワーク戦略を進める中で、ヤマトグループのアジアでの事業戦略としておもなターゲットにしている領域は「BtoBを中心とした納品物流」「越境EC」「小口コールドチェーン」の3つの分野です。

BtoBの納品物流では、日系メーカーが手掛ける自動車部品やOA機器、精密部品などを対象としています。例えば自動車産業では、タイの完成車組立工場に向けて中国やアセアン各国の部品工場から大量のパーツ類が運ばれるなどアジア域内での分業体制が進んでいます。こうした国境を跨いだ輸送需要をネットワークの優位性を活かして取り込んでいきたいと考えています。

また、中国からアセアン各国向けの越境ECも今後ますます増えていきます。ECと言うと、アパレルなどの小口商品をイメージされるかも知れませんが、中国から出荷される越境EC商品は例えば家具類や内装資材といった大型貨物まで多種多様なものがあります。OTLグループでは、従来難しいとされていたBtoC貨物の通関許可を取得するなど、越境ECの分野でも強みを発揮できると考えています。

小口コールドチェーンのインフラ構築は今後の課題ですが、大きな潜在需要があります。特にアセアン地域の農業では、コールドチェーンが未整備なために野菜などの廃棄ロスが約4割にものぼっており、これを改善できれば農家の生活水準を向上させることが可能です。また、食材の調達についても、日本の農家などのサプライヤーと日本食レストランを直接結ぶことで、安価にドア・ツー・ドアで調達できる仕組みを構築していきたいと考えています。

2019年までにラストワンマイル・ネットワークをさらに拡充

近々開始するタイ、ベトナムでの宅急便サービスに続いて、ヤマトグループが創業100周年を迎える2019年には、インドネシア、フィリピン、できればミャンマー、カンボジアにもラストワンマイル・ネットワークを広げたいと考えています。これらのアジア各国における小口輸送ネットワークとロジスティクス機能やフォワーディング機能を結合させることで、小口貨物を対象としたクロスボーダー・ネットワークをさらに強化・拡充していきます。

また、さらにその先には、インドでもラストワンマイル・ネットワークを整備して、中国からインドまでのエリアでクロスボーダーからドア・ツー・ドアまでの小口輸送ネットワークを構築したいと思います。

そのためにも、アジア各国で優秀なローカル人材を確保することが大事です。営業力を強化するための即戦力となる人材の採用に加え、長期的な視野に立って将来の経営を担う管理者を養成していくことも重要です。

このほか、電子商取引の拡大に対応したペイメント・ゲートウェイの整備やITの強化などにも引き続き取り組んでいきたいと考えています。

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